Asian Spine

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会長挨拶

谷口 真

第35回日本脊髄外科学会
会長 谷口 真
(東京都立神経病院 脳神経外科)

第35回年次総会の会長を拝命した東京都立神経病院の谷口 真です。私の現在所属する施設としては、高橋 宏会長の1999年、第14回以来21年ぶりの開催となります。

二十年、ふた昔という期間は、昨今の様に移り変わりの激しい時代には、それまでの常識を書き換えるのに充分な程の長い時間です。実際、われわれの学会もこの間に大きな変貌を遂げました。前回の頃には、まだただの未来予想図に過ぎなかった脊椎の術中ナビゲーションは、現在ではインスツルメンテーション手術であたりまえの支援手段として行き渡り、また光学装置の飛躍的な進歩によって、4Kはおろか8K画像など、もはや人の目の解像力と遜色のない性能を持つカメラやディスプレイが実現しつつあり、これによってこれまでは顕微鏡一辺倒だった手術視野獲得の手段に内視鏡や外視鏡など多彩な視点を取れる先進の装置が続々と登場しており、すでに治療戦略自体を変えるインパクトを持ち始めています。技術革新の面だけを見ればまさに今われわれの身近に未来世界が来つつあると言えるかもしれません。しかしその一方で、一世紀も前から抱えてきた根本的な問題の一部は、相変わらず未解決のまま残っており、このため現在でもわれわれ脊椎・脊髄外科医は、手術の最中、科学的事実と言うより宗教に近い信念や自らの限られた経験だけを根拠に重要な意志決定を強いられている、いくつかの側面では時代は思ったほど変わっていないというのもこれまた事実です。

この思いから今回は、学会のメインテーマを Time to Define Neurospine とさせていただきました。数年前にわれわれの学会は、英語名を Neurospinal Society と変更しましたが、Neurospineという言葉の定義には、いまなお曖昧模糊とした部分があります。この言葉を、われわれの学会が脊椎よりはおもに脊髄病変を扱う学会だからと理解する人も居れば、「脳神経外科医」が主体をなす学会だからだとする人もおります。私は、この言葉を脳神経外科医ならではの発想で脊椎・脊髄にまつわる諸問題の解決に取り組む学術活動全般を象徴するもの、いわばニューロサイエンスの一部として脊椎・脊髄外科をとらえる姿勢の表れと考えております。脊椎・脊髄の疾患の治療に関連する領域には、神経組織を扱うものには、まだまだ「学問する」に足る多くの未知・未解決の問題が残っていると思います。

この考えに沿っていくつかのシンポジウムやセミナーを組ませていただきました。まず従来からの学術委員会主催企画を発展させて、教育セッションの意味合いを強めました。今回は、ポスターの絵柄が示す通り脊椎動物が進化とともに抱えるようになった「重力」の問題を取り上げこれに関連する種々の分野の専門家による講演を企画しました。脊椎もまた運動器のひとつであり、その動きは神経の間断ない管理・調節下にあります。その病的状態を扱うには、単純に構造の異常のみでなく、その制御機構を常に視野に入れて考える必要があります。動物界広しといえども直立二足歩行を常時おこなう生物はヒトだけ。重い頭蓋を頂点にのせて高く掲げ、長い胴体を直立させて二足でバランスを維持しながら立ち・歩くという、この不安定きわまりない構造の維持には大変複雑な制御機構が必要です。また、この特殊性のためにヒトの脊柱にはとりわけ重力負荷が強くかかり、より多く加齢性変形・変性の問題を抱える宿命があります。また、パーキンソン病や脳性麻痺をはじめとした姿勢異常をきたす疾患では、過剰な筋緊張や不自然な重心の位置によりその変形・変性がさらに加速しますが、これに対して単に構造を矯正しただけではこの問題を根本的に解決することは出来ないこともすでにわかっています。この様な病的状態の根本的な解決には、姿勢制御・歩行機構の生理そのものがわかっている事が重要ですが、これが今なお充分に解明されているとは言えません。残念ながらこの課題は動物実験で試す事が出来ず、従ってヒトの治療経験からの情報が重要になります。つまり、われわれ臨床家自身が日々の治療経験を踏まえて同時に神経学者となって自分達で解決を模索していかなければならない問題です。特に脳神経外科医には、神経組織を扱う医療者としてこの問題の解決に率先してあたる使命があります。この意味で、われわれの日々の臨床活動そのものがニューロサイエンス最前線であるという自負を持ちたいというのが私の切なる想いです。

これ以外にもいくつかのシンポジウムを設定しました。先にも述べたように画像機器の技術革新は昨今著しいものです。かつて顕微鏡手術の導入は我々脳神経外科の術野に明るく大きな視野をもたらし、手術の革新を実現しましたが、そのインパクトが余りに大きかったがために、我々脳神経外科医はこれまで、内視鏡その他の新しい手術支援手段についてややもすると無頓着であった傾向が否めません。脳神経外科の治療技術の進歩と技術革新はいつも表裏一体でした。そこで、今回は、これらの新しい光学支援機器の現状と進歩の見通し、またそれらの導入が今後の手術戦略そのものにどのような影響をもたらすかについて議論してみたいと思います。

また、学問とは全く別の問題、われわれ自身の将来も今回のテーマに取り上げます。世界的に見てもやや特異な発展を遂げてきた本邦の脳神経外科は、結果として脳に手厚く脊髄や末梢神経に薄い傾向があることは否めません。このため、脊椎・脊髄領域の疾患を扱う脳外科医は、整形外科に比べて圧倒的に少なく、また世代もやや若いため、ようやくその先頭集団がキャリアライフを終えつつあるというのが現状だと思います。今後、われわれの後に続いてこの領域に参入する後輩達を増やすには、脊椎・脊髄外科医の人生の選択肢と今後の展望をある程度具体的に示してあげる必要があるように思います。ちょうど我々の仲間うちからも大学や大規模病院勤務に定年まで勤める人生以外に、手術は続けながらもクリニックを個人開業する、副業として手術に携わりながらも本業は研究等々いろいろな生活スタイルを選択する先生方が出てきております。これら先輩達の生き様が、これから脊椎・脊髄外科を目指そうとする若い先生方の参考になればと期待しています。

さらには、脊椎脊髄疾患には、血管障害や腫瘍など脳神経外科医が得意とする硬膜内病変があります。この分野については、稀少疾患ゆえに、限られた個人の経験だけでは治療法を一般化することは難しく、ややもすれば個人の趣味の発表的になりがちでした。今回は、頭蓋頚椎移行部AVFをテーマに、学術委員会公認の多施設共同研究を企画しました。現時点で、参加登録施設は28で100症例を超える見込みです。本企画が今後の大規模研究の先駆けとなることを望んでいます。
また、今回は、日本がアジアスパインの主催国ですので、各国に共通の話題である頚椎人工椎間板を合同シンポジウムで取り上げます。本邦はこの分野の導入で出遅れた感がなきにしもあらずでしたが、ようやく少しずつ使用経験が蓄積されつつあります。また、後発組である事にはデメリット以外にメリットもあります。先行した各国から「本当のところどうなの?」と聞いて前者の轍を踏まない様情報交換できるのも近隣国同士、友人の多い国同士の国際学会の利点だと思います。

一般演題に関しては、今回はアジアスパインを独立した学会ととらえず会期を事実上3日にすることで口演枠を増やし、メイン会場を含めてなんとか2会場で消化出来る様にプログラムを計画しています。いたずらに会場数を増やしては参加していただく学会員の皆様の精魂込めた演題が、閑散とした会場でさしたる議論もされずに演じられることになりかねず学会の本来のあり方から考えても良いこととは思えません。しかしそのために発表時間や学会の開始終了時間等で皆様にご迷惑をかける事になるかも知れませんが御理解いただければ幸いです。

2020年、東京はオリンピックを迎え新しい門出を迎えます。東京が1世紀前に夢見て果たせず、ほぼ50年前にその夢を実現し、それからさらに半世紀を経て新たな時代の始まりのさきがけとして開催するこのオリンピックの年に本会を主催させて頂く事を身に余る光栄と考えております。残念ながら東京オリンピックの2ヶ月前に私の本拠地である東京に会場を確保することは困難でしたので横浜での開催としました。会場は脳神経外科コングレスで皆様御存じのパシフィコ横浜ですが、いつもの建物ではなく、500メートル弱離れた新館での開催となります。2020年の5月にようやくオープンですので、まだ未整備な部分も多く、宿の手配等では会員の皆様方に多々ご迷惑をおかけするやもしれませんが、新しい試みと御理解頂き御容赦頂ければ幸いです。すでに皆様よく御存じの広々とした眺望、早朝の海風の中の散歩などをまた新たな視点から楽しんで頂けると思います。
願わくば当日雨が降りませんようにと今から祈っております。
6月、皆様のお越しをお待ち申し上げております。

令和2年1月吉日

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